
ロス五輪への号砲、安曇野で鳴る——全日本MTB選手権XCOが示した日本の現在地
Bicycle Club編集部
- 2026年07月22日
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2028年ロサンゼルスオリンピックの出場枠を懸けた国別ランキング争いが本格化した2026年。その最初の重要な試金石となったのが、7月20日に長野県安曇野市の安曇野マウンテンバイクパークで開催された第39回全日本自転車競技選手権大会XCOだった。優勝者の名前だけでなく、コースのレガシー、猛暑対策、そしてチームの組織力——この日、日本MTB界が示したものは、日本一決定戦にとどまらない多くのメッセージを含んでいた。

最高峰の男女エリートクラスでは、TRK Worksの副島達海と石田唯がそれぞれ初優勝を飾り、同チームによる男女ダブル制覇という快挙を達成。白熱した各カテゴリーの世代間闘争や、選手目線で作られた新コースの誕生など、単なる日本一決定戦にとどまらず、日本MTB界の現在地と未来、そして競技環境のレガシーを示す重要な一日となった。
エリート初年度で頂点に立った若き王者、副島達海

男子エリートにおける最大のトピックスは、今季からエリートカテゴリーへ昇格した副島達海(TRK Works)の走りだった。昨季U23王者としてシーズンを終え、満を持して国内最高峰の舞台に挑んだ若き才能は、歴戦のトップライダーたちを相手に実力をいかんなく発揮した。
レースは副島に加え、実力者の北林力(UNNO FACTORY RACING)や竹内遼(MERIDA BIKING TEAM)らによる激しい主導権争いへと発展。

中盤以降、北林がファステストラップを叩き出しながら猛追を見せる場面もあったが、副島は自らのペースを崩すことなく首位を堅持した。
21.9kmのコースを1時間10分53秒36で走破し、エリート初年度にして全日本タイトルを奪取してみせた。
「暑い中、本当にたくさんの応援ありがとうございました」と観客への感謝を口にした副島。「北林選手の調子もすごく良くて、厳しいレースになると思っていました。暑さもあって本当にタフな一日でしたが、自分のペースを守って走ることができました」と、過酷なコンディションの中でも揺るがなかった自身の走りを振り返った。

ハードテールを駆り独走劇を演じた石田唯、悲願のタイトル獲得

女子エリートでは、石田唯(TRK Works)が圧巻のパフォーマンスを見せた。2024年に女子U23王者となり、次代のエース候補として大きな期待を背負ってきた彼女は、事前の入念なコース試走と遠征で培った経験を最大の武器としてスタートラインに立った。
「誰よりもマウンテンバイクに乗ってきた自信はありました。今日は自信を持ってスタートでき、自分の力を全部出し切れたと思います」と語る通り、レース序盤から積極的な動きを見せる。勝負の分かれ目となったのは2周目だった。
「1周目が終わって2周目に入った時にペースを上げたら、ついてくる感じがなかったので、『これは行くぞ』と思ってスイッチを入れました」。長い登坂セクションを意識して選択したハードテールバイクの特性を活かし、自らのリズムで完全にレースを支配。

最終的には2位の川口うらら(NEXETIS)に対して5分以上の大差をつける独走勝利を飾り、悲願のエリートタイトルを手中に収めた。

ロス五輪を見据えるTRK Worksの組織力

今大会において特筆すべきは、TRK Worksによる男女エリート制覇である。2026年はロサンゼルスオリンピックに向けた国別ランキング争いが本格化する勝負の年。その重要なタイミングで、一つのチームから男女のナショナルチャンピオンが誕生した意義は計り知れない。
結成当初から世界選手権、ワールドカップ、そしてオリンピックでの活躍を明確な目標に掲げて活動してきた同チーム。小林輝紀監督は、レース後に選手とスタッフを次のように称えた。
「それぞれのライダーが競技だけでなく家族のことなどさまざまな課題を抱えながら、厳しいトレーニングに耐え、最高の状態で今日を迎えてくれました。まずは優勝した2人のライダーを尊敬したいと思います。そしてチームスタッフ全員が今日に向けてしっかりと準備を行い、すべてが良い形で回りました。チームワークが勝利につながったと思います」
全日本制覇の喜びを噛み締めつつも、「これはゴールではなく、世界、そしてオリンピックへ向けた新たなスタートです」と、小林監督はすでにその視線を世界へと向けていた。
「全日本は別格」 若手世代が魅せた激しいタイトル争い

エリートカテゴリーだけでなく、各世代における高い競争力も今年の全日本選手権を象徴していた。
男子ジュニアでは中仙道侑毅(FUKAYA RACING)と松山海司(FUKAYA RACING)のチームメイト同士が最終盤までデッドヒートを展開。決着はわずか5秒差という手に汗握る展開となった。「アジア選手権などでは協力して戦うこともあるが、全日本は別。タイトルを懸けた本気の勝負だった」と優勝した中仙道が語る通り、日の丸を背負う仲間であっても日本一の称号を懸けたライバルとして火花を散らした。
男子ユースでも小坂柊矢(Hedge Hog Racing)と横田壮一郎(Fine Nova LAB)のバトルがフィニッシュスプリントまでもつれ込み、タイム差はわずか0.96秒の激闘に。


また、男子U23では野嵜然新、女子U23では北津留千羽、女子ジュニアでは有松鈴々菜、女子ユースでは奥山真彩がそれぞれ頂点に立った。世代間競争の激化は、日本MTB界の裾野が着実に広がり、厚みを増していることを証明している。
安曇野から発信する競技環境のレガシーと安全への取り組み

大会の舞台となった「安曇野マウンテンバイクパーク」にも大きな注目が集まった。会場を視察したJOC会長ならびにJCF会長の橋本聖子氏は、「見る人の目線をちゃんと考えているんですよね。そういうところがやっぱりすごい。経験者が作るコースだなということが、ものすごくよく分かります」と、競技性と観戦性を両立させたコースレイアウトを高く評価した。

中山栄樹安曇野市長が「ライダーたち自身が考え、手づくりで仕上げたコースです。難しいセクションもありますが、世界レベルを目指すなら必要な要素だと思います」と胸を張るように、競技者主体で開拓されたコースの価値は計り知れない。
大会レースディレクターを務めた小林可奈子氏は、「フルサイズで一般利用する形にはなりませんが、ダウンヒルやXCO、XCCといった競技のコースとして再びレースを開催できるような形で活用していきたい」と語り、このコースを大会一過に終わらせず、今後のレース開催や次世代育成のレガシーとして残していく構想を明かした。

一方で、近年深刻化する猛暑への懸念も浮き彫りとなった。橋本会長は「JOCとして各競技団体の暑熱対策について調査しています。スポーツ庁や日本スポーツ振興センターとも一緒になって取り組まなければいけない課題です」と危機感を示し、さらに「医療サポートなしでは大会はできません。スポーツ現場で活動できる医療従事者の育成についても今取り組んでいるところです」と、安全な競技環境づくりの急務を訴えた。

選手たちの魂の走り、それを支えるチームスタッフ、コースビルダー、大会関係者、そして医療スタッフやボランティア。安曇野に集結したすべての熱意が噛み合い、日本最高峰の戦いは幕を閉じた。ロス五輪への号砲が鳴らされた2026年、日本マウンテンバイク界は新たなチャンピオンたちとともに、確かな足取りで次のステージへと進んでいく。
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- CREDIT :
- 編集:相原晴一朗 文と写真:井上和隆
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