
G7サミットで実現した「自転車外交」 マクロン大統領の狙い&各国首脳のサイクリスト度やいかに!?
山崎健一
- 2026年06月20日
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2026年6月15日から17日にかけてフランスで開催されたG7サミットで、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が各国首脳に高級自転車を贈呈。日本の高市早苗首相をはじめ、アメリカのドナルド・トランプ大統領など各国の首脳に合わせてカスタムされた華やかなロードバイク、その狙いや、UCI世界選手権PRの背景、各国首脳のサイクリスト度について、UCI公認代理人の山崎健一氏が各国首脳の反応も交えながら読み解いていきます。
ツール・ド・フランス、世界選手権のPRとして自転車を贈呈

フランス東部エビアンで開催されたG7サミットにて、エマニュエル・マクロン大統領が各国首脳に贈ったプレゼントが、自転車ファンの間で話題となっています。
贈られたのは、フランスを代表するブランド「LOOK」製の特注ロードバイク。白いカーボンフレームに各国の国旗がフォークに描かれたカスタム仕様で、2027年8月24日から9月5日までの期間にフランス・オート=サヴォワ県で開催される、4年に一度、自転車競技が一堂に会する“スーパー世界選手権”ことUCI自転車世界選手権のPRも兼ねています。

UCI(国際自転車競技連合)の会長で、同じくフランス人のダヴィド・ラパルティアン氏は、「G7サミットという最高の舞台で世界選手権を宣伝してくれたマクロン大統領に感謝する」とSNSで表明。7月5日に開幕するツール・ド・フランス(以下“ツール”)を前に、世界中の自転車ファンや観光客をフランスへ呼び込みたいフランスにとって、絶好のプロモーションとなりました。
ラパルティアン氏のX
https://x.com/DLappartient/status/2066478433270395136?s=20
フレームは最高峰、コンポは第2グレードのアルテグラ?

自転車ファンとしては、やはり贈られたバイクのグレードが気になるところ。写真を見る限り、LOOKの最高峰レーシングモデル「795 Blade RS」がベースのようで、フレーム価格は約90万円。
しかし、コンポーネントはシマノのセカンドグレードであるアルテグラDi2仕様が中心(さらなる詳細は後述)のようで、市販モデル換算では約140万円。最高級のデュラエースではないのはご愛嬌ですが、もし国ごとに仕様を変えていたら、さらに面白かったかもしれません。
マクロン大統領は公然とトランプ米大統領とやり合うこともあっただけに、もし密かにシマノのエントリーグレード「SORA」が組まれていたら、今頃、米国はフランスに関税圧力を掛けていたかも……。
さてさて、ちょっと興味が湧くのは、「贈られた首脳たちは実際に自転車に乗るのか?」という点。

マクロン大統領自身はガチの「自転車派」

マクロン大統領はジョギングやボクシング好きで知られる一方、自転車インフラ整備にも熱心で、「Plan Vélo(自転車計画)」を大々的に推進中。ツールや2027年UCI世界選手権を国家の観光・ソフトパワーと位置付け、自転車をフランス文化の象徴として強く意識しています。
毎年欠かさずツールを訪れており、フランス大統領によるツール訪問は伝統行事のため、別に自転車推しの大統領でなくても行うものですが、マクロン大統領による過去の自転車関連発言を見ていると、その自転車愛は単なる政治利用の域を超えているようです。

1985年のベルナール・イノー以来遠ざかっているフランス人によるツール総合優勝の悲願を達成するのでは、と期待される19歳の逸材ポール・セクサス選手とその担当エージェントに対し、「現所属のフランスチーム(デカトロンCMA CGM)に留まるべきだ。他国チームから強引な引き抜きがあるなら、“国益として”対処するので何でも相談してくれ」と直接連絡したというメディア報道も(笑)。
ここまで来ると半ば脅しにも聞こえますが、それだけ本当に自転車競技が好きに違いありません。ちなみに、この担当エージェントは偶然にも筆者の友人であるため、「この噂は本当か?」とメッセージを送ってみたところ、返ってきたのは「😉」の絵文字のみ。真相は闇の中っぽいですが、多分事実と見ます……。

トランプ大統領は「非サイクリスト」で確定!?

最も注目されたのは、もちろん80歳のドナルド・トランプ米大統領。
トランプ氏に自転車愛好家というイメージはなく、本人も「ゴルフ以外はほとんど運動しない」と冗談交じりに語ってきました。
もっとも、1989年から1990年には自身の名を冠したプロレース「ツアー・ド・トランプ」が開催された歴史もあり、それが後の「ツアー・デュポン」へと発展。そこで米国人として初めてツールを制するグレッグ・レモンや、ダークヒーロー!?ランス・アームストロングらも活躍しました。
とはいえ、これは当時不動産王として名を馳せていたトランプ氏の周辺が取り付けたスポンサー案件であり、本人はレーススターターを務めたものの、競技そのものには深く関与していなかった模様。
むしろ現在のトランプ政権は、自転車業界から歓迎されているとは言い難いのが現実。米国内の自転車レーンや歩道整備への連邦補助金削減を進めたほか、関税政策は米国の自転車・Eバイク業界にコスト上昇やサプライチェーンの混乱をもたらし、業界団体やサイクリストから強い反発を受けている最中です。
フランスとの政治的緊張もあり、トランプ氏は意地でもこの自転車に乗らないような気もしてしまいます(汗)。

G7における「マクロン×トランプ間のテンション!?」
※CNBC公式YouTube Shortsでも紹介されています。
https://www.youtube.com/shorts/Hr1y1BdXtSQ
他国首脳は自転車を歓迎したのか?
英国 キア・スターマー首相

英国のキア・スターマー首相はサッカー好きとして知られますが、自転車愛好家としては特に有名ではなく、むしろ少々デリケートな立場かもしれません。
というのも、2020年に自身の運転する車がフードデリバリーのサイクリストと接触し、相手は救急車で搬送されたものの、警察沙汰にはならず、示談で終わったとされています(真相は闇の中)。つまり“自転車”の話題はあまり触れてほしくない案件かもしれません。
ドイツ フリードリヒ・メルツ首相

一方、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相はアウトドア好きで、自転車利用が盛んなドイツの国民性もあって、今回の贈り物との親和性は比較的高いほうに見えます。メルツ首相がマウンテンバイクやEバイクに乗る姿も目撃されており、G7首脳の中では比較的「自転車派」に近い存在で、近いうちにメルツ氏がLOOKを駆る姿が拝めるかもしれません。

イタリア ジョルジャ・メローニ首相

イタリアのジョルジャ・メローニ首相はスポーツ好きとして知られるものの、自転車愛好家かは不明。ちなみに自転車についてはさすがイタリア、パーツがちょっと違います。唯一イタリア・カンパニョーロのグループセット、ホイールにはフルクラムを採用しています。
カナダ マーク・カーニー首相

カナダのマーク・カーニー首相も熱心なランニング派のため、実際にLOOKに乗るかは未知数です。
日本 高市早苗首相

そして我ら日本の高市首相も、自転車を趣味とする情報はほとんどなく、今回のLOOKは実用品というより外交上の記念品としての意味合いが強そうです。日本のメディアさんには、高市首相に対してぜひぜひ「G7の自転車は乗っていますか!?」という質問を定期的にしていただき、日本の自転車への意識を高めてほしいものです。

マクロン氏のX(高市首相)
https://x.com/EmmanuelMacron/status/2066624329849196921?s=20
ラパルティアン会長とマクロン大統領の関係

今回の「自転車外交」の背景には、UCI会長ダヴィド・ラパルティアン氏の存在もあるはずです。
ラパルティアン氏は元ブルターニュ地方サルゾー市長で、フランス自転車連盟会長を経て2017年にUCI会長に就任。2025年にはフランス五輪・スポーツ委員会(CNOSF)会長にも就任し、将来的な国政進出を期待する声もある人物です。
政治的立場は、ラパルティアン氏が中道右派「共和党」、マクロン大統領が中道「再生」と必ずしも一致しておらず、対立する場面も少なくないものの、親欧州路線とスポーツを国家戦略と考える点では共通しています。
政治単体では交流が難しい間柄ながら、マクロン氏としては保守派かつ自転車ファンの取り込みを期待し、ラパルティアン氏にとっても、将来的な国政進出を見据え、中道層へのアピールの場として今回の報道は機能したはずです。
今回のG7での自転車贈呈も、両者のさまざまな思惑が絡み合った末に実現した「スポーツ外交」の象徴と見ることができます。
自転車が示したフランスの国家戦略

G7サミットといえば、安全保障や経済問題が中心となり、特定のスポーツが話題になることは稀です。しかし、その舞台裏で交わされたロードバイクには、スポーツ、健康、環境、観光、産業、文化外交、さらにはフランス国内の政治ドラマ(?)まで、多くのメッセージが込められているようです。
各国首脳が実際にペダルを踏むかどうかは分かりません(いや、むしろ取り巻きの方々が、セキュリティ上の理由からロードバイクには乗せないかもしれません!?)。
それでも、エビアンで実現した「自転車外交」が世界中のサイクリングファンに強い印象を残したことは間違いありません。そしてその背後には、自転車競技の国際的発展とフランスの国家戦略、さらには個人的な政治的野望を結び付けようとする、マクロン大統領とラパルティアン会長の思惑が見え隠れしています。
いっそのこと、現UCI会長のラパルティアン氏には大統領にまで上り詰めていただき、対日外交の一環としてツール・ド・フランスのグランデパールを日本で実現してほしいものです!?
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
- PHOTO:LOOK Cycle
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