
熱海エリア最強のアジフライ定食は駅前ビルの地下飲食店街奥にある「結」で【熱海特集】

タビノリSTAFF
- 2025年07月11日
人気観光地「熱海」の飲食店「食楽 結(ゆい)」は、「誰かを連れてまた訪れたい」と、そう思わずにいられない店だ。観光客の主導線からは外れているであろうレトロな駅前ビルの地下飲食店街にあって、最高に美味しい魚を使った定食が、圧倒的にリーズナブルな価格でいただける、というまさに宝探し的な一軒なのだから。
地元漁港直送による新鮮な朝採れの魚を驚きの安さとボリュームで提供
JR東海道新幹線「ひかり」、「こだま」で「東京」駅から約40分で到着する人気の温泉地「熱海」。大正14年の開業から実に約90年ぶりに全面刷新した駅舎と、直結のショッピングセンター「ラスカ熱海」は観光地、熱海復興の象徴的存在だ。改札を出た観光客が次々にタクシーへと乗り込む駅前ロータリーを挟み、その対面には昭和の面影を残すレトロな駅前ビル「熱海駅前第一ビル」がある。
入口を入ると、1階は狭い通路を挟むようにして小さなブティックや雑貨店、土産店が並び、上階は不動産会社や企業の事務所などが入居、地下一階は飲食店街で、例えるなら東京・新橋の駅前ビルを思わせる雑多な佇まいだ。
今回紹介する「食楽 結」はその地下一階飲食店街の最奥に店を構える。オープンは2017年1月、今年9年目を迎える同飲食店街では比較的新しい店舗である。
営業はランチタイムのみの11~14時、実は平日でも営業前から行列ができる知る人ぞ知る人気店。お目当ては地元、熱海漁港で仕入れた新鮮な魚をつかったボリューム満点の定食だ。アジやエビを揚げたフライ、煮魚、焼き魚にお刺身、いずれも定食で1000円以下という、昨今の物価高では考えられないほどリーズナブル。人気観光地の相場感からすれば破格の価格設定といえる。
店内は、四人掛けのテーブル席二つと、厨房前にある6名分のカウンター席。営業開始直後から終了する14時近くまで常に満席状態が続く。まずは人気メニューの「あら煮定食(670円)」をオーダーすると、ほどなくして笑顔が素敵な若い男性スタッフが数人分はあろうかという深皿いっぱいのあら煮とごはん、味噌汁、漬物のセットを目前に運んでくれた。
鮭にヒラマサ、ヒラメなど、その日、お店で仕入れた魚のあらを中心にこれでもかと折り重なった、まさに口福なミルフィーユに圧倒される。魚のあら(三枚におろした後に残る頭やヒレ、カマなど)なので食べづらさはあるものの、身も十分付いており、甘辛のしっかりした味付けにご飯が進む。
しかし、この店の看板メニューはこれだけではない。魚介のフライ(アジ・エビ)と地元の郷土料理「イカメンチ」をセットにしたスペシャルメニュー「結定食(950円)」は必ずオーダーいただきたい。
皿の中央に大人の手のひら大はあろう巨大なアジフライが一尾鎮座。口に運ぶと、外の衣はサックサク、中は肉厚でふっくら。アジは冷凍ではなく、その日に市場で仕入れた朝獲れのアジを使用。多くの人にとって自分史上最高ランクに位置づけられるアジフライに感動を覚えるはずだ。その隣には唐揚げのような揚げ物がふたつ添えられている。こちらは「イカメンチ」。古くから漁港として栄えた熱海の網代(あじろ)地区で親しまれてきた、魚のすり身とイカを混ぜて油で揚げた漁師町の郷土料理だ。
添えられたマヨネーズをつけてまずはひと口。外はカリカリ、中はジューシーでトロっとした半生のような味わい。そこにイカのコリコリとした食感が加わる。ひき肉を使ったメンチとは明らかに違い、中身はもんじゃ焼きのような、形容は難しいが、とにかく美味しく、あっという間に完食してしまった。
近年、観光地化されている漁港直結の飲食店街でも、これほどの魚介を使った定食をこの金額で提供するのはなかなかお目にかかれない。都内から新幹線で訪れても十分に元は取れるだろう。
地元出身、飲食未経験の若い店主がご縁で結んだ調理技術と仕入れ先が可能にした定食
取材当日、空調設備の不備で厨房が蒸し暑い中、業務を終えたばかりの店主にインタビューさせていただいた。「化粧直してもいいですか(笑)」と笑顔が素敵なこの方が店主、野田 静さん。安くてうまい定食屋の主人というと、高齢ご夫婦の家族経営的なものを想像しがちだが、厨房で手を止めることなく洗い物を続けるこの方に、そうしたステレオタイプなイメージはない。熱海復興の原動力は地元の若い世代という話を耳にしていたが、なるほど納得である。
「出身が地元熱海で、社会人になってからはホテルのフロント業務をしていました。ただ、昔から地元である熱海で自分で何かをやりたいという気持ちは持っていました。だから、特別、飲食店をという気持ちも当初はありませんでした。お店の場所は、元々先代の方が50年近く飲食で営業されていたんですが、その方が引退されて、たまたまスペースが空いたというのを聞いて、それなら飲食店を始めようかなと。何度か食べにきたことはありましたが、のれんを受け継ぐような特別な関係性もなくて。本当、面白いエピソードがなくてごめんなさい(笑)」
まったくの飲食業界未経験からの起業、それがどうして、熱海の口コミサイトで高スコアを維持する人気店へとなったのだろう。それには彼女の天性のポテンシャルが関係している。
「まったくわからなかったので、まずは熱海の特産である、魚のことを知りたいと思い、伊豆山(熱海駅から北東、神社などが有名な地区)で一番の漁師さんを突然訪ねました。魚はどうやって仕入れられるのか、と思って、それなら漁師さんに直接聞くのが早いかなぁと。事情を話して、魚のことが全然わからないとお伝えしたら、『これで勉強しな』って市場に出回らないような魚を分けてくださったりして、すごくよくしてくれたんです。
でも、調理師の免許どころか、それまで特に料理が好きということもなかったので、魚のおろし方が分からない。なので、今度は魚屋さんに教えてもらえたらと思って、これも地元にある「湊鮮魚店」という魚屋さんを訪ねて教えてもらったんです。皆さん、本当に優しくて。それで仕入れ先の確保と調理を練習し、お店の内装も自分たちでできることはやって、割とすぐにお店を開けることができました」
地元の先人に躊躇なく思いを伝え、教えを乞う彼女の行動力は、さらにこの店の価値を高めていく。
「日々魚と向き合っていたら、自分の中で魚のことが楽しくなってきて、もっと魚と向き合いたいなと。そんな時ふとTVの番組で焼津にある「サスエ前田魚店」の店主、前田尚毅さんのことを知りました。日本国内だけでなく、世界から注目されている方だと知って、すごく格好良いなぁと。それで、またいきなりご本人を訪ねてしまいまして(笑)。そうしたら、奇跡的にご本人にお会いできて、それから繋がりを持てるようになりました。お店にも立ち寄ってくれますし、私も前田さんのお店に、自分でおろした魚を持って行きアドバイスをいただいたりしています。
すごい著名な方なのに、私のように全く右も左もわからないような相手でも真摯に向き合ってくださって本当に尊敬しています」
そう、彼女が名付けた「結」という店名の通り、人と人のつながりが短期間で、飲食未経験の店主を瞬く間に熱海の知る人ぞ知る人気店の店主へと押し上げる下地となったのだ。
「元々、すごく儲けたいとか、そういう思いがあって始めたわけではなくて、むしろ、お客様との繋がりや喜んでもらえたら、という気持ちが大きいんです。だから、できるだけ安く美味しいものを提供できたらと。もちろん、お店のある飲食店街の並びのお店に揃えたというのもありますし、直接熱海の魚市場から仕入れられるというの強味もありますね」
朝に獲れた新鮮なアジを当日に仕込むアジフライと祖母直伝のイカメンチ
改めて、冒頭に紹介した至高のアジフライとイカメンチを振り返る。各方面のプロフェッショナルからの助力を受けて紡がれたレシピは、もはや完成の域にあるようだ。
「本当、アジフライには命を懸けてるって言えるくらい、こだわっています。鮮度はもちろんなのですが、アジはその日の朝に獲れたものだけを当日に仕込んで使うんです。これも、焼津の前田さんに教わったものなのですが、「たて塩」といって、仕入れ後にすぐにおろし、塩分濃度を海水程度(約3%)にした塩水へ浸し、冷やして寝かせる。そうすることで、ふっくらした食感と均一な塩味、臭みを軽減できる。だから、仕込みは自ずと、当日仕入れてから、営業開始までに済ませなきゃいけないし、そうしなければこのアジフライにならないのです。
郷土料理のイカメンチに関しては、実は私の祖母がイカメンチの発祥の地である網代地区の出身。以前、網代はイカが多く獲れたことから、イカを使ったこの料理が生まれたと聞いていました。実はイカメンチって、家庭ごとに違いがあるんです。市内では、網代の郷土料理を出す『味里』さんなどが有名ですが、お店で出しているのは、私が幼い頃に祖母に作ってもらって美味しかったイカメンチをベースにしています。でも、私が味を継承したいと思ったころには、祖母は認知症が進んでいて、私が食べさせてもらったレシピを完全には継承できませんでした。だから、今提供させていただいているのはベストではない私のオリジナル、それでも、スーパーや土産物店で買うより、お店で食べた方が格段に美味しいので、ぜひ召し上がってみてください」
お店がオープンした2017年の1月から、3ヵ月後、静岡ローカルのTV番組に取り上げられると、瞬く間に人気店となり、以来、インターネットのクチコミサイトでは熱海屈指のスコアの人気店となっている。この店は、熱海で生まれ、熱海と熱海の食材を愛する店主が、熱海と、地元民、観光客との縁を紡ぐために切り盛りする心温まる交流の場でもあるのだ。
いたずらに店舗数を拡大していくような展望はないが「将来的には海外出展はアリかも」と考えているという店主、パワフルで行動力のある彼女のこと、きっと近い将来、そんな夢も実現させてしまうだろう。
Information
食楽 結
住所:静岡県熱海市田原本町9-1 熱海第一ビル B1F
電話:070-4072-1112
営業:ランチ営業のみ 11時~14時(L.O.13時半) 火曜休
https://www.instagram.com/atami.yui/
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『タビノリ』は、旅の楽しさは、旅のはじまりである「移動」から、旅前の準備、ふとした寄り道、車窓から見つけるお気に入りの風景など、旅の余白に目を向け発信していくメディアです。また、旅をその周縁のものと組み合わせ、定番の旅先や新しい旅の提案などを仕掛けていきます。
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