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【産後登山体験談】「堂々と山へ行ける」子どもの成長とともに取り戻した自分の山時間

出産という大きな山を乗り越えたあと、どのようなステップを経て登山を再開していったのか。山を愛してやまない女性たちの産後登山体験談をお届けするインタビュー企画です。

プロフィール

フォトグラファー・森の案内人・星読み師/内田民子さん(写真右)

1978年生まれ、長野県出身。2児の母。「森と人を繋ぐ」をコンセプトとする「ハルニレ森の案内所」を主宰。地元である長野県松本市を拠点に、ポートレートを中心とする写真撮影、完全プライベートの森案内、占星術鑑定・講座などを行う。2025年には、安曇野をベースに森林散策、森林浴太極拳、ロルフィングなどのリトリート企画を運営する「サイレントネイチャーワークス」を友人とともに立ち上げる。

産後の登山デビューは、妊娠前に何度も登っていた冬の黒斑山

北アルプスのふもと、長野県松本市を出身地とする内田民子さんは、22歳から登山を始めました。友人との月数回の山登りを楽しみながら、徐々に山に魅了されていった内田さん。26歳で蝶ガ岳ヒュッテのアルバイトを経験し、30歳で松本勤労者山岳会へ入会して雪山デビュー、33歳で登山の技術や知識をしっかりと学べる長野県山岳総合センターのリーダー講習を受講するなど、着実にステップアップをしていくなかで、34歳となる2013年に第1子を、2015年に第2子を出産しました。

――内田さんは妊娠前まで本格的に山登りをしていたようですが、ひとり目の妊娠がわかったときはどんな気持ちでしたか。

内田 30代半ばになってからの妊娠で、すでにいろいろな山を登り切っていたので、「たくさん登っておいてよかった!」というのが率直な気持ちでしたね。(長野県山岳総合センターの)リーダー講習は途中でしたけど、本当に良いタイミングでした。

――山を始めてから約10年の間にやり尽くしていたと。妊娠中はどこかの山へ出かけたりはしましたか。

内田 安定期に入ってから、ロープウェイを利用して夫といっしょに御嶽山の女人堂まで歩きました。噴火前だったので、夫はそこからひとりで山頂周辺の池めぐりもしていましたね。おなじようにロープウェイを利用して、八海山にも夫婦で登りました。このときも別行動で夫は山頂まで行きましたが、私はお腹が張りやすかったので、自分のペースで行けるところまで行って、夫の戻りを待っていました。

夫は地元の山岳会で出会った人で、仲間と山スキーをしたり、高山植物を探しに単独で登山をしたりしています。山に関しては、私よりも知識が豊富にありますね。

――ご主人自身も山好きなら、山に関して理解がありそうです。出産されたあと、初めて登った山の思い出を教えてください。

内田 ひとり目の娘が1歳になる直前に、1回だけ冬の黒斑山にひとりで登りました。出産前は毎年冬に登っていて、ひとりでも登れる雪山でしたから。すっかり筋力が出落ちていたので、何度も立ち止まって写真を撮りながら、ゆっくり歩きました。

寒さで指が痛くなったり、雪が朝陽に照らされてキラキラと光っていたり……。歩くうちに次第に感覚が戻ってきて、「雪山を歩いている」という嬉しさに満たされた1日でした。

――すてきな思い出ですね。妊娠前の最後の登山から産後初登山まで1年近く空いていたようですが、「山に行きたい」という思いは募らなかったのでしょうか。

内田 私の場合、山というよりは子どもの写真を毎日撮ることが息抜きになっていたんですよね。あとはラッキーなことに、独身時代に出会っていた山友だちがおなじ時期に結婚して子どもを授かっていたので、山友だちがそのまま母仲間になり、彼女たちと頻繁に会っていっしょに子育てをしていたこともあって、あまりそういう気持ちにはならなかったんですよ。

――そんななか、黒斑山に登ろうと思ったきっかけは?

内田 だいぶ前なのではっきりとは覚えていないですけど……。真っ白な浅間山や針葉樹の森を、「だれかとではなく、ひとりで見に行きたい」と思ったんでしょうね。

▲産後、1年のブランクを経て登った山は、群馬県と長野県にまたがる黒斑山。カメラを手にひとりでゆっくり歩いた。

産後ママ仲間と協力し合いながら登った、夏の唐松岳の思い出

▲第2子の産後初登山は、短めのコースタイムで絶景に合える北アルプスの唐松岳をセレクト。内田さんと同じ時期に第1子を出産していた友人と登ったごほうび登山は、最高の快晴に恵まれた。

――ふたり目の出産後は、どのように登山を再開されましたか。

内田 ふたり目のときは「山に行きたい!」という気持ちが高まっていたので、生後半年のころに友人と日帰りで唐松岳に行きました。

――ひとり目の娘さんとは対照的ですね。

内田 ふたり目が生後半年になるまでが大変すぎたんです。娘がまだ保育園に行ってなかったので、ふたり目の息子がお昼寝のときに、娘がいるからいっしょに寝られなかったりして。本当に必死で、「年の差を3歳離せばよかった」と思いました(笑)。なのでふたり目のときは、「お願いだからちょっと行かせて!」みたいな感じでしたね。

――それはとても辛そうです! ふもとの松本市から日帰りとはいえ、長時間預けることになりますが、不在の間はご主人にミルクをあげてもらっていたのですか。

内田 私はふたりとも母乳で育てていたので、夫に搾乳した母乳を託して出かけました。

――母乳育児だと、自分以外の人に預けるのが大変だと聞きます。

内田 そうですね。私は娘が生後2カ月のときからカメラマンの仕事を少しずつ再開していたので、撮影で家を12時間ほど空けることもありました。撮影の合間に搾乳しながら……。絞った母乳を家に置いていったのですが、娘はこだわりが強く、中身が母乳でも哺乳瓶を拒否して飲まなかったんですよね。私が帰って来るまで全然飲まなくて、私がいない間は体力を温存していて、帰ってきたら「ギャーッ」と泣いて飲んでいました。

なので息子のときは、子どもが生まれて間もない時期から、搾乳した母乳を哺乳瓶に入れて飲ませる、ということを計画的にやっていました。

――そういう方法があるとは。

内田 哺乳瓶に慣らすということは、山だけでなく仕事でも必要なことでしたからね。もちろん子どもによって個性があって、いくらやっても慣れない子はいると思いますが、息子の場合は、運良く哺乳瓶から飲んでくれるようになりました。

――搾乳した母乳をご主人に託して唐松岳に登っている間、不安感はありましたか。

内田 私は登っているあいだは全部忘れるタイプで、不安感はなかったですね。「子どもはどうしているかな」といった感情も全然なくて。

――仕事も産後早々に再開して、お子さんを他人に預けることに慣れているからというのもあるんでしょうね。日帰りで登った唐松岳はどうでしたか。

内田 最高でした! 当時、ちょうどおなじ時期にひとり目を出産した山の友人といっしょに登ったんですよ。「ちょっと搾乳器貸して」とか言って、ふたりで搾乳しながら……。

――バックパックに搾乳器を入れて!

内田 はい。歩いている途中で「乳が張る~!」とトイレに駆け込んだりして (笑)。ふたりとも胸がパンパンになりながら登りましたが、本当に最高の登山でした。八方池に白馬三山がくっきりと映る絶景に出合えましたし、登山道のまわりには高山植物の可憐な姿も。体力も筋力もかなり落ちていたので、行き帰りともにコースタイム1~2時間オーバーのゆっくりしたペースで、景色を堪能しながら歩きました。

▲唐松岳の山頂を目指す途中にある、八方池。当日は清々しい快晴に恵まれ、池の水面は白馬三山を映す水鏡に。

ふたり目が小学校に入り、羽が生えたように山へ通い始める

――それは最高の産後登山でしたね。以降は頻繁に登るようになりましたか。

内田 じつは唐松岳から下山したら、娘が熱中症になって救急車に乗ることになったという連絡が入ったので、慌てて病院に直行したんです。病院に着いたら、娘の症状が落ち着いていたのでよかったのですが……。想定が甘かったなと反省して、それ以降は慎重になりました。本格的な登山は娘が保育園に通い始めてからしか行ってないので、2年くらいは空いたと思います。

――2度目の産後登山デビューからその次の登山までは、2年もブランクがあったのですね。

内田 はい。娘が4歳半、息子が2歳半のときに、子どもたちを夫に預けて1泊2日のテント泊で白馬岳に登りました。いっしょに登ったのは、娘の保育園の担任夫妻でした。もともと白馬岳が大好きだったので、そのときは「また来れた!」という気持ちがあふれて、とにかく楽しかったですね。雪渓を登ったり、稜線上で景色を見たり。最高としか言い表せない、すばらしい山行でした。

当時は「保育園に預けているのに、仕事をしないで登っている」という罪悪感がすごくあって……。申し訳なさで、保育園に預け始めてからもそこまでガッツリとは登っていません。ただ土日を中心に働いているので山に行けるのはおもに平日でしたし、自分自身の心の健康のために山はどうしても必要だったので、保育園に子どもを預けている間に歩ける場所、上高地や白駒池などへ出かけることもありました。

本格的に復帰したのは、ふたり目の息子が小学校に入ってから。そのときのことはすごく覚えていて、入学3日目には、身体に羽が生えたような気持ちになりました。「山に行ける。自由に、堂々と行ける!」と。

▲子どもたちが小学校へ上がる前、内田さんが息抜きでたびたび訪れていた上高地は、子連れハイクにもおすすめのスポット。道が平坦で歩きやすく、水を触ったり木道を歩いたりとさまざまな遊び方ができる。

――義務教育だから関係ないですもんね。そこからは、頻繁にどこかの山へ?

内田 そうですね。とくに息子が2年生になってから3年間くらいは、足繁く山へ行くようになりました。たまに夫と登ることもありましたが、基本的にはお互いが行きたいときに協力し合うというやり方で。産前に行きたくても行けなかったところを思い出して、北アルプスのジャンダルムや下ノ廊下などに行きました。親の介護も始まっていないし、夫が見てくれるし、体力もあるから「いましかない!」と思って。

ただ母親になって、絶対に無事に帰ってくることが大前提になったので、初めてプロのガイドさんにお願いするようになりました。ガイドに依頼するという選択肢はそれまでなかったんですけどね。

――母になったことで、登り方も変わったわけですね。

内田 自分の力で登り切ることよりも、生きて帰ることを優先するようになりました。「無理はしない。登頂しなくてもいいし、途中で帰ることもあり」という考え方に変わった感じです。

――子どもたちと山へ行くこともありましたか。

内田 はい。夫が「子連れ登山デビューは、子どもたちが自分で自分の荷物を背負って登れるようになってから」という考えだったので、娘息子ともに4歳半のとき、地元の里山をいっしょに登りました。テント泊デビューは娘が9歳、息子が7歳のときで、家族で北八ガ岳の双子山に行きましたね。

子どもふたりがおなじ年齢の友人との母子登山を毎年行っていて、娘が3年生のときにその親子とテント泊の登山をし始めました。「上の子たちの小学校最後の夏休みに、総仕上げとして裏銀座あたりを歩きたいね」とその友人と話して、3年かけてその目標に向けて経験を積んで、娘が6年生、息子が4年生のときに4泊5日で黒部五郎岳をゴールに裏銀座を歩きました。

――テント泊で4泊5日! それ大冒険ですね。子どもたちに対して印象的だったことは?

内田 「こんなにできるんだ」と、母である私たちが子どもの力を思い知る山行になりました。黒部五郎岳までは私も行ったことがなかったんですけど、思った以上に子どもにとっては危険なところが多かったんですね。場所によっては助けることができないから、自分の足で歩いてもらうしかない。なので決まりごとだけ何回も確認し合ってから歩きました。でも子どもたちは、本当に頼もしく歩いていましたね。

▲大きなバックパックを背負い、母子6人で歩いた4泊5日の裏銀座大縦走。写真奥の赤い屋根は、槍ヶ岳と黒部五郎岳をつなぐ稜線上に建つ双六小屋だ。

――大人でもくじけそうな行程なのに、すごいです。

内田 黒部五郎岳の登山を終えたときに、「自分の命は自分で守ること」という生きるうえで大事なことを伝えきった、子育てが一区切りしたと感じました。また親としても、「その子の命を信じること」を学ぶことができたと思っています。

――子どもの成長をとおして、大人が学べることも多いということですね。最後に、これから内田さんのように「産後に登山を再開したい」と思っている方々へメッセージをいただけますか。

内田 「山に登りたい」という気持ちをしっかりと心に描いていれば、自ずと環境が整っていくと思います。なので、意識することが大事かなと。あとは、母親が山に登ってリフレッシュすれば、家族にもいい循環が生まれるということですね。私の場合、産前は山登りが非日常だったけど、産後は日常の延長線上にある存在になりました。日常生活のなかで大変なことがあっても、山に行くと毎回、「あれってこういうことだったのか」と気づきが得られるんですよね。その経験が家庭に還元されて、また家で穏やかにすごせるようになります。

山が好きな人は、山に登っていたほうがきっと家庭も子育てもうまくいく。だから、「ぜひ登ってください」と伝えたいです。

▲三俣蓮華岳の山頂にて。小学6年生になったふたり目の息子は、「自分の足で黒部五郎まで行ってきた」ということを誇りに思っていて、着々と山好きになっているそう。

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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