
青切符制度導入を前に高校生が「自転車の未来」を考える、愛媛で開催の自転車甲子園で見えた答え
Bicycle Club編集部
- 2026年03月21日
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2026年4月に自転車の交通違反に対する「青切符制度」が導入されることを前に、高校生の交通安全教育に改めて注目が集まっている。とくに16歳以上が制度の対象となるなか、高校生世代は事故リスクが高い一方で、交通教育の最終段階に位置する重要な年代だ。ここでは2025年11月に愛媛県松山市で開催された「第5回 自転車甲子園」を取材。道路交通法クイズや実技、スピーチ、討論などを通して、高校生たちが交通ルールや地域の自転車文化を主体的に考える姿を追い、日本の交通安全教育の現在地を探る。
自転車甲子園から見えてくる、日本の交通教育の現在地

自転車は、幼児から高齢者まで幅広い世代が利用する身近な交通手段である。環境負荷の低減、災害時の移動手段、健康増進といった観点からも、その活用を社会全体で推進していくことが求められている。
一方で、日本の交通事故情勢を見ると、事故総数は減少傾向にあるものの、自転車関連事故が占める割合はむしろ増加している。特に歩行者と自転車の事故は増加傾向にあり、自転車が「弱者」であると同時に「加害者にもなり得る存在」であることが改めて意識されるようになってきた。
こうした背景のなか、警察庁はガイドラインのなかでライフステージごとの交通安全教育を示した。たとえば未就学児では道路環境の理解、小学生では基本ルールの習得、中学生では危険予測能力の向上、そして高校生では社会的責任を含めた交通行動の理解へと教育が発展していくといった具合にだ。
そのなかでも特に重要な世代が高校生だ。統計では、自転車事故の死傷者数は16〜19歳の年代でピークを迎える。さらに学年別では高校1年生(特に6月)に事故が集中する傾向がある。つまり高校生は、交通教育の最終段階でありながら、同時に事故リスクが最も高い世代でもある。
そんな高校生世代の交通安全教育を象徴する取り組みのひとつが、毎年愛媛県で開催されている「自転車甲子園」だ。
毎年レベルアップするクイズ、暗記ではなく法律理解が求められた

2025年11月9日、愛媛県松山市にて「第5回 自転車甲子園」が開催された。夏開催となった前回から一転、今回は秋の開催となった。愛媛県内10校に加え、長野県白馬高校、そして大阪府から初参加となる2校(交野高校、金光藤蔭高校)が加わり、全国13校が熱戦を繰り広げた。2026年4月から始まる自転車の「青切符制度」導入を前に、高校生たちは交通ルールと地域活性の両面から“安全な自転車文化”を考えた。
大会はANAクラウンプラザホテル松山を拠点にスタート。午前中は「道路交通法クイズ」「ヘルメット装着」さらに実技の3種目が行われた。
冒頭の道路交通法クイズでは2026年4月から施行される「青切符制度」や「ながら運転」などの最新テーマも出題され、理解度の深さが問われた。
地元愛媛がヘルメット装着率を裏付ける高得点

「ヘルメット装着」では、3人チームの総得点が10点満点で争われた。普段からヘルメットを被り慣れている愛媛の学校と白馬高校を含む9校が10点満点を獲得。いっぽう今回初参加となった大阪2校は厳しい判定となった。

今回、審査およびヘルメットの被り方について講師として登場したカブトの小川 裕輔さんが、ヘルメットの被り方のポイントを解説した。
今回、初参加となった大阪府の高校生にとってはヘルメットは被るだけではなく、正しく被れているように見えても、紐の細部が正しく調整できていないケースがあることなど、改めてヘルメットの被り方を認識する場となった。
ただ、大阪府から初参加となった2校は、自転車甲子園での経験がないことから不利な面はあったが、その意気込みは高かった。交野高校の生徒は「愛媛では街の中でもヘルメットを被って自転車に乗っている人が多くみられました。自転車の安全に関する議論はヘルメットだけではありませんが、大阪でももっとまじめに取り組める空気があっていいと思いました」とコメント。高校生たちは、自転車甲子園を通して愛媛県と大阪府との自転車の安全利用に関する取り組みの温度差を感じていたようだ。

松山の繁華街「大街道商店街」で実施された実技

松山市内の繁華街、大街道商店街で行われた実技では「スラローム」「一本橋」「スタンディング」の3種目が行われた。昨年の優勝校である土居高校が強さを見せた。
この時点での順位は次の通り。
1位:土居高校
2位:FC今治明徳校
3位:松山北高校中島分校
4位:北宇和高校
5位:松山中央高校
6位:白馬高校
となった。
スピーチ部門で白馬高校が大逆転!

午後は各校が地域課題や交通安全、地域活性化などをテーマにしたスピーチを発表。PowerPoint資料を用いた5分間のプレゼンに、審査員からの質疑応答が加わる。
ここで流れを変えたのが白馬高校。長野県白馬村の交通安全活動やトラック死角体験を取り入れた発表が高く評価され、スピーチ部門1位に輝いた。
生徒たちは「白馬では多くの生徒がマウンテンバイクやロードバイクなどのスポーツバイクで通学しており、幼少期から自転車に親しむ環境があります。生徒にとってスポーツバイクは移動手段だけでなく、楽しい遊び道具であり、一番大きな理由は、楽しいからです」と述べた。こうした経験から白馬高校の生徒は「スポーツバイク通学を認め、ママチャリ以外の選択肢を増やしてはどうでしょうか」と提案。さらに「若い世代のうちに自転車の楽しさを感じることが大切」とし、自転車文化を次の世代へつなげていく重要性を伝えた。
スピーチを終えた段階での順位は以下の通り。
1位:白馬高校
2位:土居高校
3位:弓削高校
4位:松山北中島分校
となった。
討論バトル:弓削高校が驚異の逆転優勝

決勝討論では、午前・午後の合計上位4校(白馬・土居・弓削・松山北中島)が進出。今年のテーマは「自転車に乗る人が道路交通法を遵守するために必要な方法とは」。各校が「教育」「啓発」「テクノロジー」など異なる視点で意見を戦わせた。
弓削高校は、「自転車に乗る人が道路交通法を遵守するためには、交通ルールを体系的に学ぶ機会が必要です」と考え、義務教育の授業の中に自転車交通ルールを取り入れることを提案した。

弓削高校は自転車の並走やイヤホンを付けながらの運転の危険性、ヘルメット着用などについて触れながら、「じつはどれも法律で決められていますが、意外と知らない人が多いと考えました。まずはルールそのものを正しく知ることが重要です」と説明した。そしてその解決策として、「私たちはこうした『知らなかった』をなくすために、自転車の交通ルールを授業として学ぶ仕組みを作るべきだと考えました」と提案し、小学校や中学校の授業の中で道路交通法や安全な自転車の乗り方を学ぶ教育を行うべきだと主張。さらに、警察と連携した実践的な授業を行うことで、知識だけでなく実際の行動にも結びつく学習が可能になるとした。
また弓削高校は、この提案の根拠として、「警察庁によると、自転車が関係する事故の約6割が19歳以下、中高生が関係しています」と述べ、若い世代への教育の重要性を強調した。現在の交通安全教室は年に一度程度であることが多く、「一回の講話だけでは細かいルールまで理解するのは難しい」と考えたため、授業として継続的に学ぶ必要があるとした。
この点については、「自動車の免許を取る時のように、ある程度時間をかけて学ぶことが必要だと考えました」と説明。中高校生の自転車のルールへの理解度が低い現状とルールを理解することの難しさを踏まえた発言となった。
こうした弓削高校は現実的な提案と説得力で他校を圧倒。見事、ディベート部門1位を獲得し、総合優勝を果たした。

最終結果
優勝 弓削高校
準優勝 土居高校
第3位 白馬高校
第4位 松山北高校中島分校
特別審査員賞 FC今治明徳高校
中川逸朗氏による審査員総評まとめ

審査委員長を務めた愛媛県参与の中川逸朗氏は、今回の大会について「本当に面白いものを見せてもらった」と語り、高校生たちの発表や議論の質の高さを評価した。
特に印象的だったのは、決勝討論で議題となった「自転車利用者に道路交通法をどう守らせるか」というテーマだという。ルールを知ることの重要性はもちろんだが、それを社会の中で定着させるためには教育が必要であり、さらに重要なのは「当たり前のこととして習慣化すること」だと指摘。
「ルールは知っているだけでは定着しません。日常の行動の中で当たり前に守るものとして習慣化していく必要があります。その点について、今回の討論では非常に興味深い議論が展開されていました」と発表内容についても、各校の個性がよく表れていたと評価する。
また、自転車文化を考えるうえでは、日本国内だけでなく海外の視点も重要だと指摘する。例えば日本ではヘルメット着用が推奨されているが、ヨーロッパでは必ずしも同じ考え方ではなく、自転車専用インフラの整備を重視する地域もあるという。
「日本では『ヘルメットをかぶりましょう』という議論が中心ですが、ヨーロッパでは自転車専用道路などインフラ整備によって安全を確保するという考え方もあります。こうした違いを知りながら、日本の自転車文化もさらに発展させていく必要があります」と必ずしも、ヘルメットの大切さも理解しつつ、ヘルメットの着用だけが安全ではないことにも触れた。
最後に中川氏は、「今回の大会そのものが、私たち大人にとっても多くの学びを与えてくれる機会だった」と述べ、自転車甲子園が今後さらに発展していくことへの期待を示して総評を締めくくった。
特別審査員賞 FC今治明徳高校

FC今治高等学校明徳校の発表は、地域のサイクリング文化と研究活動を結びつけたユニークな内容となった。
生徒たちはまず、海沿いや山道、農道などを走りながら今治周辺のサイクリングコースを発掘し、地域の魅力を体感。その過程で出会った地元事業者と協力し、地元食材を使ったサイクリスト向け補給食「リンカ」の開発・販売プロジェクトをスタートさせた。生徒は「地元の食材を使って今治をアピールしたいと思いました」と語り、商品は地元店舗やカフェで販売されるなど実際の地域活動へと発展しているという。

さらに生徒たちは、「自転車通学は学力に影響を及ぼすのか」というテーマで調査も実施。生徒約90人を対象に計算力や記憶力を比較した結果、記憶力では自転車通学者の正答率が高い傾向が見られたという。発表では「体を動かせば、頭も動くようになると思います」と自転車の効果を語った。一方で結果には個人差や生活習慣の影響も考えられるとし、今後も研究を続けたいと述べた。
地域活動と研究を組み合わせたこの取り組みは、審査員の原田洋平氏(国土交通省)からも「非常にユニークで面白い発表だった」と評価され、特別審査員賞を受賞した。

青切符制度と高校生教育のこれから

今年の自転車甲子園で印象的だったのは、高校生たち自身が「なぜ交通ルールを守れないのか」「どうすれば守れるようになるのか」を真剣に考えていたことだ。
弓削高校が討論で指摘した「交通ルールを知らない人が多い」という言葉は、現在の自転車利用の課題を端的に表している。並走の禁止やイヤホン運転、ヘルメット着用など、法律で定められている内容であっても、実際には十分に理解されていないことが多い。
その一方で、白馬高校が語った「自転車が楽しいから乗る」という言葉もまた重要だ。自転車は単なる移動手段ではなく、スポーツや遊びとしての魅力を持つ存在でもある。だからこそ、楽しさと安全の両立をどう実現するかが問われる。危険だからやめる、違反だから罰する、だけでは自転車文化は育たない。自転車の魅力を損なわずに、どう安全な利用を広げていくか。その問いに対して、高校生たちはそれぞれの地域の実情から答えを探っていた。

さらに、大阪から初参加した大阪府立交野高等学校や金光藤蔭高等学校の存在も印象に残った。
都市部では、愛媛のようにヘルメット着用や交通安全意識が地域全体の文化として定着しているとは言い切れない面がある。それでも生徒たちは、他地域の実践に触れながら、自分たちの地域で何ができるかを考えていた。初参加校である今治東中等教育学校や宇和高等学校も含め、今回の大会は、経験の有無を超えて地域課題を自分たちで解決しようとする姿勢に満ちていた。
2026年4月からは、自転車の交通違反に対して青切符制度が導入される。制度が始まれば、これまで以上にルールの重みは明確になるだろう。しかし本当に大切なのは、罰則によって守らせることだけではない。若い世代がルールの意味を理解し、自ら安全な行動を選択できる力を育てていくことこそが、交通安全教育の本質ではないだろうか。
自転車甲子園は、クイズや実技、スピーチ、討論を通じて、高校生たちが自転車の安全利用を自分たちの問題として考える場になっていた。そこで語られたのは、「ルールを守りましょう」という一方通行の呼びかけではない。「なぜ守れないのか」「どうすれば守れるのか」という問いから出発した議論だった。そこには、交通安全を自分ごととして引き受ける姿勢があった。
今でこそ愛媛県は「自転車新文化推進県」を掲げ、2027年には世界最大級の自転車まちづくり国際会議「Velo-city」の開催地にも決まっている。自転車を地域の文化として育て、観光やまちづくり、日常交通のなかに位置づけていこうとする姿勢は、全国のなかでも際立ったものだ。
愛媛県でもヘルメット着用率は10年前は0.6%だった

「自転車県愛媛」を足元から支えているのが、高校生世代への地道な安全教育でもある。県内高校生のヘルメット着用率は、2015年には0.6%だったが、私立高校を含めた義務化の推進などを経て、2018年には97.3%まで向上した。ここまで着用率が上がった背景には、学校現場での継続的な指導だけでなく、自転車甲子園のように、高校生自身が安全を考え、発信し、競い合う機会を5回にわたって積み重ねてきたことも大きいはずだ。
ただ、その背景には忘れてはならない現実もある。愛媛ではこれまで、交通事故によって命を落とした高校生がいた。そうした悲しい出来事があったからこそ、地域全体で「自転車を安全に乗ること」を真剣に考え続けてきた歴史がある。いま愛媛が自転車先進県として語られるのは、華やかな政策やイベントだけによるものではない。その根底には、失われた命を無駄にしないために、学校、地域、行政が積み重ねてきた切実な取り組みがある。
青切符制度の導入によって、自転車のルールはこれまで以上に可視化されていく。だが、ルールを本当に社会に根づかせるのは、取り締まりだけではない。高校生たちが自分の言葉で安全を語り、地域の課題として共有し、後輩たちへ伝えていくこと。その積み重ねこそが、自転車文化を支える土台になる。
自転車甲子園は、単なる大会ではない。
愛媛が培ってきた交通安全教育の現在地であり、これからの日本の自転車社会を考えるうえでのひとつのモデルでもある。2026年4月の青切符導入、そして2027年のVelo-cityを見据えるいま、高校生たちの議論は、制度の先にある本当の意味での安全と文化のあり方を静かに問いかけている。

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- 文と写真◎バイシクルクラブ編集部 写真◎愛媛県自転車新文化推進協会
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