
反射炉ビヤ/静岡県|山とクラフトビール〜ブルワーを訪ねて、特急で!〜

オガサワラガク
- 2025年07月29日
編集部から届いた“最後通告”。それは、町中華とクラフトビールの楽園に引きこもり続けてきた餃子超人・オガサワラガクを、ついに山道へと引っぱり出す。1泊2日の綿密な行程表だった。はたして“逃げ腰の美食家”は、汗と笑いの先にどんな風景と味に出会ったのか──。
反射炉ビヤと餃子の香りに誘われて
蔵屋鳴沢 反射炉ビヤ醸造所
醸造長 山田隼平さん
ワイン造りからクラフトビール造りへ転向。クラフトビールがもつ自由さと土地の個性、その両方を優しく引き出す造り手。ワールドビアアワード2023・ケルシュ部門世界最高金賞受賞

住所:静岡県伊豆の国市中272-1
電話番号:055-949-1208 (ビアスタンド)
営業時間:木・金18:00 ~ 21:00、土12:00 ~ 23: 00、日12:00 ~ 20:00
Instagram:@hansharo_beer_stand
ランドネ編集部が本気を出してきた!
ランドネ本誌で「やまとビール」という連載をやらせていただいているにも関わらず、毎度なにかしらの言いワケを並べて山登りを回避し、町中華とクラフトビールを楽しむだけになっていたこちらの企画。とうとう編集長の堪忍袋の緒が切れたのか、ついに編集部が本気を出してきた!
いつも取材前日に1日の流れを知るのだが、今回は数週間前の段階で、1泊2日の行程がびっしりと決められた行程表なるものが送られてきた。もうすでに編集部の山﨑さんの本気がうかがえる。なんとしてでも私を山に連れて行く気だ。
今回も山登りを回避する理由を色々な角度から考えていたが、幸運(?)にも、山登りを予定していた2日目に雨の予報が出た。初心者を雨の山に連れて行くのは危険だ。エベレスト登山ですら、頂上にアタックするために慎重に天気予報を分析することくらい私だって知っている。
さすがに今回は私がなにも言わなくても中止になるだろうと安心していたところ、山﨑さんが「2日目の山登りの予定を初日にやっちゃいましょう」というパワープレイを提案。結果として、初日に登山とクラフトビールと町中華の取材を行なうことに。そんな無茶な。初日はのんびりした予定だったことに油断し、前日に飲みの予定を入れていた自分を悔いた。
当日、朝5時起きで意識朦朧としたまま、修善寺駅へ。駅で集合してすぐに路線バスへ乗り込み、太郎杉を見てから浄蓮の滝に向かうルートで登山がスタートした。
滝は滝でも、養老乃瀧(居酒屋チェーン)を目指すのであればどこまでも歩けるのだが(とくに学芸大学店は個人経営のフランチャイズということもあり、お料理がとてもおいしい)、浄蓮の滝という居酒屋ではないほうの滝を目指して数時間歩くことができるか少し心配であった。
この水で餃子を焼きたい!
そんな不安いっぱいで始まった登山早々、美しい川に出くわす。その川はとても青かった。吸い込まれるような深い青色をしていて、このままじゃぼんと飛び込みたい。そんな衝動を抑えながら、しばし見惚れる。



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太郎杉への道は平坦で、歩きやすく、川の音や木々のざわめきが心地良い。途中に点在するワサビ田もこの地ならではの景色。
そこからは太郎杉に向けて登るというより平坦な山道を歩き続けた。道すがら、ワサビの畑に出合ったり、草花が切り開かれたようなかわいい道を歩く。
だいたい40分ほど歩いただろうか。その杉は突然現れた。一本、まっすぐに立つ姿は、ほかの杉とは太さも高さも、そして纏っている空気感もまるで違う。とても神秘的で、心がスッと洗われるような気分になる。無数に生い茂る杉のなかで、この一本だけが「太郎杉」と名づけられた。だれかの目に留まり、名を与えられ、こうしていまも人を惹きつけている。その偶然と必然の重なりが、なんとも不思議で、美しい奇跡に思えた。
太郎杉の余韻そのままに次は浄蓮の滝へ向かったのだが、滝の直前の売店でおにぎりを買ってベンチに座った瞬間に足が動かなくなり、浄蓮の滝は目の前にして断念。やはり養老乃瀧だったなら。
しばしの休憩後、「もう撮れ高ありましたね」という、あわよくばの登山終了の提案は、やはり本気を出している山﨑さんには届くはずもなく、次の山へ向かうこととなった。
目の前の浄蓮の滝をあきらめるほどに疲れていたのだが、山頂からの眺めがとても美しい!下山したらクラフトビールを飲みましょう!という甘い誘惑に負けて次の登山を開始。
次に登った鉢窪山はとにかく斜面がきつい。距離は短いものの、下北沢・珉亭の急階段を延々と登っているようで、前モモは乳酸でパンパンに。
ジグザグに進まなければ滑ってしまうほどの急登で、直線では登れない。なるほど、登山は恋愛に似ている。遠回りでも一歩ずつ着実に進まないと、ゴールにはたどり着けないのだ。
私は〝101回目のプロポーズ〞の武田鉄矢を憑依させ、愚直に、ただひたすら一生懸命に歩き続け、ようやく頂上にたどり着いた。しかし、そこから見える景色は、天候の影響で白く霞んでいた。遠くの山々も、街も、期待していた「絶景」はそこにはなかった。
それでも、なぜか「きれいだ」と思った。遠くが見えないぶん、目の前にある草や木、足元の岩や、流れる空気の粒一つひとつがくっきりと感じられる。曇っていても、山はそこで静かに呼吸していた。
雑味ゼロ。副原料は山田さんの優しさ

下山後は反射炉ビールへ。ここには、何度もお世話になっているブリュワーの山田さんがいる。
私のなかで山田さんは、〝人格者〞という言葉がぴったりな人だ。ネガティブなことを一切言わず、ひたすらに謙虚に真面目で底抜けに優しい。そして、イケメン。
なんとか好感度を下げる話を聞き出そうと「最近ムカついたことないんですか?」と聞いても、「ん? ないですねぇ」とにっこり返されて終わる。
そんな山田さんの〝透明感〞をビールタンクにそのまま詰め込んだのが反射炉ビールだ。
反射炉ブリュワリーで作られるビールはどれも軽やかで、雑味がなく、スッと澄んだ飲み口が特徴的だ。副原料の魅力が過不足なく抽出されていて、「その素材のいいところだけ」をすっと差し出してくれる。

山田さんは元々、山梨大学でワインを学び、そこからクラフトビールの世界へ。ワイン酵母を使ったビールや、ウイスキーの熟成樽を使ったものなど、多彩な醸造にも挑戦してきた。
山田さんの醸造スタイルは〝多様性と寄り添い〞に満ちている。これまでキャンパーや音楽バンドといった異分野とのコラボビールも多数。ときには1㎏30万円もするコーヒー豆を使ったチャレンジもしてきたというから、その柔軟さと探究心には頭が下がる。
彼の言葉を借りれば、「ビールは経験値のかけ算」。実験設備や小ロットタンクを活用して、毎週1銘柄オリジナルを作るという姿勢に、その言葉の重みを感じる。

反射炉ビールの取材を終えて、お楽しみの中華亭へ
餃子パワーが切れ、疲労の限界を迎えた私の「ウルトラタイマー」は、ピコンピコンと激しく鳴り響いていた。
中華亭はいわゆる〝町中華〞だが、「古びた中華屋さん」のイメージとはまったく違う。まず、徹底的に清掃が行き届いていて、厨房も店内もどこでも寝転がれそうなほどに清潔。そしてなにより驚くのが、その料理のていねいさ。焼豚はもちろん、餃子の皮、回鍋肉に使う味噌までもが自家製というから恐れ入る。
餃子は、手作りならではのもっちりとした皮に、サクッとした焼き目の香ばしさ。やや大ぶりながら野菜中心の餡で、ふんわりと軽く、油も控えめ。優しい味付けの中に、ほんのり香るニンニクが心地よく、自然とビールに手が伸びる。この餃子とビールのために、今日一日がんばったと言っても過言ではない。一日の苦労が、ふわっと報われる瞬間だ。
そして中華亭の名物は、なぜかカツ丼。分厚いカツは驚くほど柔らかくジューシーで、専門のとんかつ屋でも、これほどのカツを出す店はそう多くないだろう。さらに個人的には、焼豚も強くおすすめしたい。毎回たっぷり食べて、帰り際にはお持ち帰り用を頼むほどの愛着ぶりだ。
中華亭は、いつ訪れても胃袋と心が満たされる、最高の町中華。
そしてなにより、ここには料理のおいしさだけでなく、ご家族の温かさがある。厨房に立つご夫婦はもちろん、店を切り盛りするご家族のみなさんが本当に親切で、その人柄が料理の味にも、店の空気にも優しくにじみ出ている。

店舗情報
中華亭
住所:静岡県伊豆の国市寺家130-11
電話番号:055-949-3360
営業時間:11:30 ~ 13:45(L.O.13:40)、17:30 ~ 19:45(L.O.19:40)
定休日:水・木
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