
パタゴニアに聞いた。なぜダウンは選ばれ続けるのか──ダウンの力、化繊の進化、その性能の違い
PEAKS 編集部
- 2025年12月23日
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数あるインサレーションウエアのなかから、本当に納得できる一着に出会うには、いくつかの要素を見極めて選ぶ必要がある。
まず、用途に応じてどれくらいの暖かさが必要なのかを考えると、適切な厚さやボリュームがある程度絞り込めるだろう。そして、中綿素材として「ダウン」と「化繊」のどちらを選ぶかという判断も、慎重に行なわなければならない。
「断熱」という同じ役割を担いながら、まったく性質の異なるふたつの中綿の特徴をしっかりと理解しておくことが、製品の個性を読み解くカギになる。
パタゴニアでテクニカル製品を担当する片桐星彦さんに、あらためてふたつの素材の違いと、それを使った製品の特長について話を聞いた。
編集◉PEAKS編集部
文◉小川郁代
写真◉宇佐美博之(インタビュー)、熊原美惠(スタジオ)
ダウンと化繊はどう違う? その役割と進化を整理する

「もともと化繊の中綿は、希少価値の高いダウンの代替品として開発されました。安価に生産できるうえ、ダウンのように濡れるとロフトが失われて保温力が低下するという弱点もなく、乾きも早い。ただし、初期の化繊綿は重くてかさばり、そのわりに断熱性能もダウンに及ばず、高価なダウンの“やむを得ない代わり”として選ばれる、妥協策にすぎない存在でした」
ところが、その後化繊綿はすさまじい進化を遂げ、いまではダウンと双璧を成すインサレーションとして、確固たる地位を築き上げた。ダウンの構造を合成繊維で再現することで、軽さも暖かさも、ダウンに引けをとらないレベルにまで到達。しかも、汚れたら手軽に洗濯ができ、万が一生地が破れても中身が噴き出さないなど、扱いやすさも大きな魅力だ。さらに価格も安いとなれば、もはや化繊綿を選ばない理由を見つけるのが難しいと思えるほど。
「それでも、ダウンの存在感が衰える気配はいまもありません。ダウンを使用したモデルは、ロングセラーとして多くのユーザーに選ばれ続けています。その大きな理由のひとつに、これほど進化を遂げたいまも、化繊綿は「1グラムあたりの保温力」でダウンには及ばないということがあると思います。中綿の量を少し増やせば、化繊綿でもダウンと同じだけの保温力を得ることはできるかもしれません。しかし、極限の世界では、このわずかなダウンの断熱・保温の優位性が非常に大きな意味を持つんです」
極限で光る“1gあたりの保温力”──グレードVIIが示すダウンの本領

- グレードⅦ・ダウン・パーカ
¥148,500
サイズ:XS〜L
カラー:シズルレッド、ブラック
重量:712g(M)
https://www.patagonia.jp/products/grade-vii-down-belay-parka/84847.html?dwvar_84847_color=SZRD
それがもっとも明確に表現されているのが、シビアな環境を想定したテクニカルダウンの最上位モデル「グレード VII・ダウン・パーカ」だ。素材、設計、ディテールなどすべてを徹底的に磨き上げ、高品質ダウンの性能を最大限に引き出している。
900フィルパワーの100%ダウンを惜しみなく使用したハイロフトなボディ。無数に伸びる放射状のフィラメントが形成するダウンボールが、大量の空気を取り込んで高い断熱性を発揮する。天然素材ならではの太さのバラつきや微妙なねじれが、空気を蓄える“すき間”を生み、複雑に絡み合う構造が、押しつぶれてもバネのように元の形に戻る極めて高い復元力を発揮。合成繊維では再現できないこの構造こそが、ダウンの保温力が化繊綿を上回る理由だ。

「ダウンの機能を最大限に発揮するために、生地のパターンや縫製の構造にもこだわりました。バッフル構造と呼ばれるボックス状の空間にダウンを詰め込むことで、偏りを防いで断熱層を均一に保ち、ロフトを最大限に保つことができます。表地は、軽量で優れた耐久性を備えた10デニールのパーテックス・クァンタム・プロ・リサイクル・ナイロン。高密度の生地に微孔性コーティングを施して水の侵入を防ぎ、さらに耐久撥水加工を組み合わせて、多少の雨や雪などの悪天候下でも、大敵の濡れから中のダウンを守ります」
濡れへの強さと扱いやすさ──化繊インサレーションの現在地

- メンズ・DASパーカ
¥64,900
サイズ:XS〜XL
カラー:ブラック w/P6ブルー、他3色
重量:556g(M)
https://www.patagonia.jp/product/mens-das-belay-parka/85350.html?dwvar_85350_color=BLKP
同じく寒冷な環境で使えるビレイ用パーカーとして、「DASパーカ」の評価も非常に高い。こちらは中綿に化繊綿「プリマロフト・ゴールド・インサレーション・エコ」を使用したモデル。表地は「グレード VII」と同じくパーテックス・カンタム・プロを採用し、エアロゲル・テクノロジーによって保温性を最大限に高めている。
「最大の強みは、やはり濡れに対する圧倒的な強さです。水や湿気の多いコンディションで使うなら、化繊綿のDASパーカを選ぶのが正解でしょう。ただし、「グレード VII」ほどの断熱性はないので、保温力が足りるかの判断は必要です。製品重量としてはDASパーカのほうがグレード VIIより150ℊほど軽いため、もっと中綿を増やして保温性能を上げられるようにも思えますが、化繊綿はある程度以上に量を増やすと、密度が高まり空気を蓄えるロフトが確保できず、重量に対する保温性のバランスが悪くなってしまいます。冒険的なチャレンジに挑むアスリートたちも、環境に合わせて、保温性と濡れのリスクの微妙なバランス感覚を要する選択を強いられているようです」
軽さ・汎用性・ロングセラー──「ダウン・セーター」の位置づけを解く

- メンズ・ダウン・セーター
¥38,500
サイズ:XS〜XL
カラー:プラメットパープル、他5色
重量:369g(M)
https://www.patagonia.jp/product/mens-down-sweater-insulated-jacket/84675.html?dwvar_84675_color=CASG
タイプは大きく異なるが、同じく中綿にダウンを使用した「ダウン・セーター」も、パタゴニアを代表するロングセラーのひとつだ。軽さと暖かさのバランスのよさで、定番として長く支持され続けている。当時としては革新的だった細い横方向のキルトラインは、チューブ状のスペースにダウンを封入することで偏りを防ぎ、安定した保温性を得るための工夫。シンプルかつ洗練されたデザインで日常使いとしても人気が高いが、冬山やバックカントリーなどで使用できる機能を備える、「手が届きやすいテクニカルダウン」といった位置づけにある。
「中綿は800フィルパワーのダウン100%、表地には、耐久撥水加工を施した20デニールのリサイクルナイロンリップストップ素材を使用しています。裏面には、熱と圧力で繊維の密度を高めるCIRE(シレー)加工を施し、防水性・保温性・防風性を高めると同時に、ダウン抜けも抑えています。さらに、破損時にダウンの吹き出しを防ぐため、内側に極薄の不織布を1枚縫い込んであり、日常だけでなく、本格的なアウトドアシーンでの信頼度も高いと思います」

同じダウンの中綿を使った製品でありながら、「ダウン・セーター」と「グレード VII」では、用途も性格もまったく違う。過酷な環境では「グレード VII」のダウン性能が実力を発揮する一方、一般的な山のシーンでは、強みである「1グラムあたりの保温力」が、決定的な差になることは少ないだろう。化繊綿を使った「ナノ・パフ」や「マイクロ・パフ」は、アクティビティにおける使用シーンでダウン・セーターと共通する部分が多いが、濡れへの強さやケアのしやすさといった化繊ならではの扱いやすさが際立つ場面も多々ある。
ダウンか化繊か──“素材理解”が一着を選ぶ最短ルートになる

それでもダウン・セーターが選ばれる理由のひとつは、パッキング性能の高さにある。宿泊や停滞時、バックカントリーの保温着として、多くの時間荷物に入れて持ち運ぶような使い方では、ダウンの圧縮性の高さは大きなメリットとなる。あっという間にロフトを回復して保温力を発揮する復元力の高さも、化繊綿では得られない。
もうひとつ、ダウンでしか得られないものがあるとすれば、着心地や満足感といった、機能の物差しでは測れない部分だろう。独特のふわりとした手触り、袖をとおしてすぐに感じられる穏やかな温もり、凹凸を繊細に拾うように体を包む感覚を経験したことがあるはずだ。化繊綿の製品には最新テクノロジーを体感する高揚感があり、ダウンには、質のいい素材を身にまとう満足感がある。
もちろん、中綿の種類だけがウエアを選ぶ基準ではない。それ以外の要素が絡み合って、ひとつの製品は成り立っている。だからこそ、ダウンにも化繊にもそれぞれのメリット・デメリットがあることを理解することが、自分のフィールドやスタイルにふさわしいものを見極める、なによりの近道になるはずだ。
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編集◉PEAKS編集部
文◉小川郁代
写真◉宇佐美博之(インタビュー)、熊原美惠(スタジオ)
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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