
地域や各家庭によって作り方が異なるイタリアのピザ|筆とまなざし#439
成瀬洋平
- 2025年10月30日
イタリアの食文化とピザに対するこだわり
ジャンマリオの家はマンションの3階にあった。すでに前菜とお酒が用意されていて、台所ではロサンジェラがピザの生地を伸ばしていた。
ピザというと丸いものを思い浮かべるが、ロサンジェラが作っているのはオーブンの形に合わせた長方形のもの。しかも特大だ。そういえば、ピッツェリアで注文するピザは丸いが、カフェで一切れずつ売られているものは四角い。みんなでシェアするピザは四角く作ってさらに細かく切り分けるのが一般的なのだろう。
トマトソースにモッツァレラチーズというシンプルなピザ。生地はグルテンフリー、チーズは乳糖の入っていないものを使っているという。
「お店のピザは厚めの生地が多いけど、家で作るときは薄めのクリスピーな感じにするんだ」
家庭によってさまざまな作り方があるのだろう。いわずもがな、ロサンジェらが作ってくれたピザはとてもおいしかった。3人では食べきれないのではと思うほど多かったのだが、ものの数分で平らげてしまった。
ジャンマリオがお酒の説明をしながら勧めてくれる。この地方を代表するお酒がジェネピー。「ジェネピ」というヨモギの仲間の高山植物をアルコールに漬けたハーブリキュールである。アルコール度数は40度とウイスキーばりに高い。爽やかな香りが特徴だ。名前は忘れてしまったがほかにも高山植物をアルコールに漬けたお酒が何種類かあった。香りをつけるほかに薬としての効果もあるという。喉が痛いときに効きそうである。山国に古くから伝わる薬膳酒なのだろう。
クライミングの話はもちろん、イタリアや日本の文化の話に花が咲く。ロサンジェラは南イタリアの出身だそうで、なるほど、見た目も言葉もロカーナの人たちとは少し違うことに合点がいった。ロカーナには色白の人が多く、ジャンマリオも色白で金髪。ロサンジェらは小麦色の肌をしていて髪も焦茶色。イタリアでは地域によって差異が大きく、地理的要因、歴史的要因が大きく関係しているそうだ。
あっという間に時間はすぎ、すでに午前2時を回っていた。
「明日もボルダー開拓に行こう! 時間は……また明日決めよう」
翌日のボルダー開拓が終始お疲れモードだったことはいうまでもない。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。

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