クラック自体の難しさはもちろん、コンディションを掴むのも難しいコブラクラック
「コブラクラックに行く人を探していたんだ! 今週の金曜日はどうかな?」
タイソンはそう言った。
スコーミッシュのダウンタウンにある「Climb On」はすばらしいクライミングショップである。タイソンは店のスタッフで、コブラクラックをトライ中らしく、パートナーを探しているということだった。ちなみに、別の店員であるイーサンは最近コブラクラックを完登したといい、スポートルートではドリームキャッチャー5.14dも登っている。良い店には強い店員がいるものである。タイソンと連絡先を交換して店を出た。
金曜日、彼は日が翳る午後から来るということだった。ぼくはほかのルートも登りたかったので同時期に日本から来ているAちゃんと朝から岩場へ向かった。昼を少しすぎると、タイソンが同僚のセブといっしょにやって来た。
この日はトップロープでムーブ練習をすることにした。タイソンのシークエンスを参考に、自分なりにアレンジを加える。複雑なムーブだが少しずつ動きが組み立ってくる。しかし、前傾部分が始まってからの遠い3手目が止まらない。
タイソンは、名前から勝手に厳つい男を想像するが(完全にマイクタイソンのイメージ)、色白の、まだ20代ほどの青年である。エネルギーに満ち、しかもとても礼儀正しい。彼は2度トライすると「先に下るね」と帰っていった。ぼくは3便目を出したが指が痛くてなにもできなかった。1日に2便が限界のようである。
その後、コブラクラックには3度訪れた。そのうち2度は雨でびしょびしょに濡れていた。残りの一日は乾いていたが暑くて滑り、すぐにテーピングが剥がれてしまう。件の3手目はなんとか止まるようにはなったものの、止まっただけで身動きが取れない。もう少し上にジャミングを決められれば随分いいのだが。クラック自体の難しさはもちろん、コンディションを掴むのも難しいのだとわかった。
たわいもない話をしながらみんなですごした1日は思い出深い良い日になった。しかしこれ以上コブラに通っているとほかのルートを登らずに旅が終わってしまう。ひとまずここを訪れるのはやめ、別のルートを楽しむことにした。そう、スコーミッシュには数えきれないほどのクライミングルートがあるのだ。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
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