名だたるクライマーだけが完登できた「コブラクラック」の難しさを自分の体でたしかめる
今年の旅先にスコーミッシュを選んだ理由はいくつかあるが、そのひとつは「Cobra Crack 5.14b」を見てみたいと思ったからである。いわずと知れた、世界最難クラスのクラック。およそ登れるとは思わないけれど、それがどれだけ難しいものなのか自分の体でたしかめたい思ったのだ。
スコーミッシュに着いて5日目、雨予報だったが見るだけでもいいからとコブラクラックに行ってみることにした。キャンプ場から急なトレイルを登ること小一時間。汗だくになってたどり着いた先に、前傾壁に走る一筋のフィンガークラックはあった。傾斜はそれほど強いと感じなかったものの、思っていたよりも細く見えた。ポツポツと小雨が降り出していたが、とりあえず行けるところまで行ってみようと登り始めた。
出だしがトリッキーで、ボルダーの1〜2級くらいだと聞いていた。トライ中のクライマーがプリクリップ用にナッツを残置していて、ありがたく使わせてもらうことにする。下部をこなすとすぐにプロテクションが取れなくなり、ステミングをした先のハンドクラックでひと安心。レストポイントを挟むと、急にクラックが細くなった。エイド混じりというかほとんどカムエイドでガバへ。そこから前傾部分が始まる。左手を一手出して思わず声を上げた。
「細い!」
何度かやるとジャミングの仕方はわかったが、その先も一手一手のジャミングやムーブが複雑でまったくわからない。とりあえず、有名なワンフィンガーアンダージャムのポイントを見てみたいとエイドで上がる。が、しかし。クラックはどこも想像以上に細い。自分の太い指を受け付けてくれそうなところは見当たらず、どこがそのポイントなのかさえもわからなからない有りさまだった。雨足が強くなり、雷鳴が聞こえた。ふたたびカムエイドとクライムダウンを交えて地面まで戻った。
取り付きには、歴代の完登者の名前が書かれた手作りのフィンガーボードがあった。初登のソニー・トロッター、日本人で唯一完登している平山ユージさん、オルコで出会ったピート・ウィタカーやトム・ランドール、そしてディディエ・ベルトー。世界中の名だたるクライマーばかりである。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
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