
関心事を仕事にするママチャレンジャー|低山トラベラー、偏愛ハイカーに会いに行く #15
大内征
- 2026年04月27日
山の愛し方は人それぞれ、とはいうけれど。十人十色の偏愛ワールドを覗いてみれば、これからの山の愛し方とその先の未来が見えてくる、かもね。
今回の偏愛さん

寺井真理(マリベ)さん
「人に伝える価値ある情報」を模索し、教育・まちづくりなどの現場から山の世界へ。登攀から里山歩きまでこなす実力派ライター。二児の母としてライフステージの変化に寄り添い、山と社会を編み直す独自の表現スタイルを追求する
Instagram:@terastudio.maribe
クライミングと親子ハイクを両立!関心事を仕事にするママチャレンジャー
仕事を聞かれたら、僕は「物書きです」と答えている。文章を書くことを生業としているから文筆家でもあるし、自分の名前で書籍(つまり作品)を出しているのだから作家と言っても間違いではない。自ら肩書きを名乗るときは「低山トラベラー」と答えることもある。相手によっては、そんな肩書きなんてまったく通じない。それはそうだ。なんでも物事をカテゴライズしてしまう日本において、僕の肩書きと仕事の世界観を説明するのは、ちょっと難しい。
村上龍の『13歳のハローワーク』によれば、作家とは「人に残された最後の職業」だという。カッコいい意味ではない。どうにもならなくなったときに切る、最後のカードという意味だ。たしかに、作家になるための資格なんてないし、自ら名乗れば仕事をスタートできる。なんだっていいのだ。どんな職業からも〝転職〞できる。ただし、食べ続けていくとなると、ちょっと難しい。
作家に必要なのは「社会に対し、あるいは特定のだれかに対し、伝える必要と価値のある情報をもっているかどうか」だと続く。伝える必要と価値のある情報をもっていて、もう残された生き方は作家しかない、そう思ったときに、作家になればいい、と。つまり、〝最後の切り札〞なのだ。僕はもう、そのカードを切ってしまった。なんてこった。
そんなわけで、同業者の数少ない友人が、今回の偏愛ハイカー。東海地方を中心に山のライターとして活動をしている「マリベ」こと寺井真理さんだ。好みの山行スタイルはアルパインで、ときに親子で鉄道旅をしたり、低山を歩いたり。某誌の低山特集では、おなじ誌面に名を連ねることがたびたびあった。光栄だ。




都会っ子だけど、自然派おてんば娘
マリベさんと僕には共通点がある。それは、お互いの故郷における社会的なできごとと市民参加型のプロジェクトを経て独立し、〝切り札〞を切ったということだ。僕は東日本大震災だったし、彼女にとっては愛知万博がそれだった。初めて会ったときから意気投合し、それ以来気にかける存在なのは、そのためかもしれない。
LINEを見返すと、仕事に関する模索話ばかりしていて興味深い。俺たち真面目かよ、と笑ってしまう。ときにアドバイスを求められることもある。そのとき、僕は僕自身に話しかけているかのような錯覚に陥ることが多い。僕にとって、おなじような背景をもつ数少ない〝同門〞であり、ある意味で〝同志〞でもあるからだろう。
名古屋の中心地で育った都会っ子でありながら、親の影響で自然に親しみ、兄の影響で木登りをする女子だったそうだ。おてんばだ。バスケ部で根性と足腰が培われ、ダンス部では全国大会を経験。思春期に熱中した運動経験は、大人になってからなにかと役に立つ。そのいっぽうで、絵と文に夢中になった幼少期があった。創作が好きで、マンガと小説をよく書いたというからすごいものだ。貯めた小遣いは透明水彩などの画材へと消え、雑誌『小学○年生』に投稿する熱心なハガキ職人。なんて利発的な!

転機はアートとワークショップ
転機は、名古屋の大学で開催された高校生向けのワークショップに参加したこと。建築をテーマとした内容で、それがあまりに楽しかったらしい。大学は院まで進み、ワークショップの手法を研究。そのプロセスで深く関わったのが、世界で初めて市民参加を理念に掲げた愛知万博だったわけだ。ほどなくその分野の第一人者だった中野民夫さんに師事し、屋久島で行なわれたファシリテーションの合宿に参加。そのときうっかり登ったのが黒味岳。山にのめり込む入口は、意外なところにあったのだ。もってるなー、物語!
教育系の大手企業に勤める傍ら山岳会で経験を積み、結婚・子育てを機に愛知に戻ってフリーランスライターに転身したマリベさん。当初は古巣の仕事だけ請けていたものの、山のことだけに絞りたいと腹をくくった結果、いまがある。僕が出会ったのは、もうすっかり山のライターとして活躍していたころだった。
プロフィールには「山ママライター」という肩書きがみえる。しかしながら、彼女の仕事もまた、説明が難しい。というのは、純粋に登山のことを書くのではなく、根っこでは〝人間社会〞を意識した活動を志向しているように、僕の目には映るから。物書きはその表現手段のひとつにすぎない。



教育、ワークショップ、山、地域……山ママライターの見つめる未来
着々とライターとして実績を作っているマリベさん。いまは四方に張ったアンテナにもとづいて山のことに取り組んでいるけれど、彼女の見ている風景は、どことなく〝別のところ〞にあるようにも感じる。山とかけ合わせるなにか……教育か、ワークショップか、ツアーガイドか。ローカルか、それとも別のテーマなのか。秘めたなにかを模索しながら仕事を作っている姿に、僕はまた、自分自身を重ねてみている。
社会に対し、あるいは特定のだれかに対し、伝える必要と価値のある情報をもつこと。それを彼女が自身の言葉で明快に言語化したとき、山のライターという枠を超えたマリベさんの仕事の世界観を知ることになるのかもしれない。





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