
町内会会合|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #59
高橋広平
- 2025年11月10日
先日、毎年恒例にしているライチョウの秋群の撮影のために入山してきた。10月下旬の気温としては「こんなものだろう」という水準だったのだが、いかせんついひと月前まで暑い日々を過ごしてきての急な気温変化だったので、例年よりも非常に寒く感じた。個人的に秋は好きな季節なので、こうも短くなってくると切ない気持ちになってしまう。四季を大切に感じながら生活したいものである。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平
町内会会合
10月下旬から数日のあいだ、ライチョウの秋群を撮影するべく高山帯に足を運んだ。ライチョウに会うなら悪天候のほうが良い(会いやすい)というセオリーのもと、少々荒れた日の上山だった。森林限界の稜線上の気温はマイナス3度前後、当日の風速は遮るものがない状態で15m以上。たびたび20m以上の風が絶妙にいやらしい角度で吹き付け、それなりの重量を誇る私の体ですら煽り揺らして、谷底へ誘おうとする非常に大変な日だった。
ただ苦労してフィールドに赴いたかいもあり、現地では初雪となる日に生息地にたどり着くことができた。気温と風の合わせ技で体感温度がマイナス20度に達する状況のなか、道中2羽のオスにも遭遇したのだが、今回の目的はあくまで秋群のライチョウたちである。登山道付近にいた2羽に「ちょっと通るからね、ごめんね」と声を掛け静かに通過する。日ごろから彼らを驚かせたりストレスを与えないのが彼らを愛するものの責務であるので、出会えた喜びよりも嫌な思いをさせないようにとの緊張のほうが先立つ。
それはさておき、例年お世話になっている町内会(ライチョウの)の皆さんに会うために約束の場所へ向かう。彼らはわりと時間にキッチリしているので、待ち合わせの時間などにうるさい私としても同じ生きものとして非常に好感が持てる。約束の場所には都合の良いことに私ひとりがちょうど収まる程度の窪地があり、そこを塹壕のようにして待機する。冬用のアウターとインナーを仕込んでいるものの、仰向けに寝そべる背中からはほのかに冷気が伝わり始めてくる。
待つことしばし。来るとはわかったうえで待っているものの、彼らが来るのは突然である。眼前左翼から白い飛翔物が静かに、瞬く間に飛んできた。私のわずか1mの距離を横切り数m先へ着地する。聴き慣れた特徴的な鳴き声で少しささやいたのち、周りの植物を啄み始めた。まずは2羽。そして数分と待たずに1羽2羽と次々と集まったライチョウたちは10羽近い群れとなった。
ライチョウ語というものが翻訳できればよいのだが、残念ながら言葉を解することができないのであくまで推察になるが、秋群の状態で彼らがなにをしているかというと、その日のできごとの情報交換やお互いの生存確認であると思われる。自治体の連携とでも言おうか。ひとしきりおしゃべりと採食を済ませたのち、群れの1羽が号令をかける。
今回の一枚は動画、秋群の集団行動の情景である。日に1、2度、地域の住民が集まり、情報交換をして、その後各々がねぐらに飛び立っていく様子なのだが、運良く帳がおりる前に撮影ができた。いつもはもう少し暗いときに解散することが多いので、機材性能的になかなか記録できていなかったのだが、ようやく形に残せたので公開したい。
今週のアザーカット

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PROFILE
PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家
高橋広平
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo




















