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夏の終わりとオン・ザ・ロードの始まりVol.2──寄り道の先に

旅の途中で、ふと足を止めた湖のほとり。
風の音と水面のきらめき、そして一人のクライマーとの出会いが、私のなかのなにかを少しだけ変えた。
寄り道は、ただの遠回りじゃない。
それは、思いがけず自分を自由にしてくれる時間なのかもしれない。

文・写真◉寺井杏雛
編集◉PEAKS

▼ 前回の記事はこちら

夏の終わりとオン・ザ・ロードの始まりVol.1──ドライブマイカー

夏の終わりとオン・ザ・ロードの始まりVol.1──ドライブマイカー

2025年10月27日

ロードトリップの始まり

▲ケローナで出会ったクライマーのクリスチャン・コア(左)。

私の住むスコーミッシュは、カナダ西海岸・ブリティッシュコロンビア州にある小さな街だ。そこから東へ1,000km弱クルマを走らせると、雄大なロッキー山脈が連なるアルバータ州の西端にたどり着く。今回はロードトリップらしく、途中の街・ケローナの湖畔へ寄り道することにした。

せっかくのケローナでなにをしようか迷っていたところ、出発前日、ケローナに暮らす一人のクライマーを紹介してもらった。

▲ケローナ、エリソン湖のほとり。

初めてのロードトリップは心配をよそに、楽しいものだった。海を眺めながらバンクーバーを通りすぎると、そこからは地平線へ真っ直ぐ続く道。次第に世界は乾き、青空と大地のコントラストが際立っていく。やがて、海のように大きなオカナガン湖が現れた。そこから少し北上すると、今回の目的地・エリソン湖だ。到着は夕方。少し泳いで涼み、食事をとって眠りについた。

湖畔の気づき

▲クリスチャン・コアがSlabacadabra(スラバカダブラ)を解説してくれているところ。

翌朝、紹介されていたクリスチャン・コアが笑顔で現れた。彼は2008年、当時「世界最難関」とされた岩を初登した人物だ。レジェンドと呼ばれるクライマーに共通するように、彼もまた物腰の柔らかい人だった。

岩場へ向かう途中、彼はエリソン湖のことを愛おしそうに語ってくれた。鼻を近づけると樹皮からほのかにバニラの香りがする木のこと。草むらの気配の正体がシマリスであること。そして湖には、全長2mの巨大な魚が棲んでいるかもしれないということ。

岩は湖のすぐそばにあった。大きなクライミングエリアというより、岩が点々と散りばめられていて、それらを順々に追いかけていく。岩から岩へ移動するたび、シマリスが現れては、また姿を消した。

▲バニラの香りのする木。

なかでも印象的だったのは、湖を背に登る「Slabacadabra(スラバカダブラ)」という課題だ。「スラブ」と呼ばれる岩の形状に、“アブラカダブラ”の呪文をかけ合わせた名前が可愛らしい。人が登った形跡は少なく、私は緊張感と高さに押され、何度も途中で降りては登り直した。一手一手をていねいに確かめ、ようやく岩の上に立って振り返ると、翡翠色の湖が静かに佇んでいた。まるで本当に呪文で生み出されたような光景だった。

▲スラバカダブラの岩の上から眺めるエリソン湖。

滞在時間こそ短かったが、クリスチャンがエリソン湖を慈しむように、私にとってもこの場所は特別なものになった。きっと世界には、まだ知らないローカルな遊び場が星の数ほどあるのだろう。そう思えば、目的地を急ぐより、寄り道をもっとしよう。偶然の出会いや、人づてに教えてもらう温もりある場所──その一つひとつが、旅を静かに、しかし確かに彩ってくれる。そして、そういう旅こそが私に「自由」を与えてくれるのだと、湖畔ですごしたひとときが教えてくれた。

▲エリソン湖の夕方を楽しむローカル達。

この寄り道の先に待っているのは、ずっと楽しみにしていたロッキー山脈。雄大な山々の麓でどんな景色や人に出会えるのか──胸を高鳴らせながら、再びハンドルを握った。

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PROFILE

寺井杏雛

寺井杏雛

山で遊びながら育ち、そのままの想いで学生時代も自然のなかへ。クライミングにマウンテンバイク、ハイキング——気づけばいつも山が遊びの中心にあった。現在はカナダ・ブリティッシュコロンビア州スコーミッシュを拠点に、山とともにあるライフスタイルを楽しんでいる。

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